11月東海発電所見学記

11月某日、地理研で茨城県東海村にある東海発電所に見学に伺いました。

 まず、地理研らしく東海駅に現地集合し、徒歩または自家用車で東海原子力館別館に伺いました。こちらで発電所の職員の方と合流し、東海原子力館本館にバスで案内していただきました。東海原子力館本館では、発電所の仕組みや歴史、再稼働に向けた取り組みなどについて学んだのち、職員の方に東海発電所について改めて詳しくご説明いただきました。質疑応答ののちに東海原子力館別館にバスで送っていただいたのち、東海村の街並みを眺めたり、イオン東海店にてご当地銘菓などを購入したりしつつ、東海駅にて解散しました。

 ネットや文献で事前に発電所について勉強してから訪問させていただきましたが、発電所の規模や地域との関わりなど実地に行かなければわからないことをたくさん学ぶことができました。改めて案内してくださった職員の方には深く感謝を申し上げます。

 伺ったお話を基に、会員の有志にコラムを寄稿してもらいました。会員それぞれが違う切り口で発電所を見た記録をご覧いただければ幸いです。

 なお、以下の文章は地理研の会員の個人の感想です。団体の公式の見解を示すものではありません。

会員A:東海発電所・第二発電所の沿革 

原子力発電の歴史は1940年代にさかのぼる。第二次世界大戦で広島・長崎に二つの原子爆弾が落とされたことへ反省を受け、戦後、アメリカが原子力発電に成功すると「原子力の平和利用」への期待が高まった。しかし、当時の日本には原子力発電所を建設するノウハウがなかった。そこで、海外製の原子炉を輸入する形で、日本の原子力発電の歴史が始まった。

 1956年に日本原子力研究所が、1957年に日本原子力発電(株)が東海村に設置された。これにより、東海村は国内の原子力研究の中心地となる。1966年に営業運転を開始した東海発電所は、日本初の商用原子炉である。 

 さらに1978年、日本で初めての大型原子力発電所・東海第二原子力発電所が稼働を開始。1998年には、東海発電所が稼働を停止し、廃炉措置を着手。これは、日本で営業を開始した原子力発電所としては初めての廃炉である。

 このように、茨城県東海村は、日本の原子力産業の歴史のなかで常にトップランナーとしての歩みを進めてきた。

 しかし、2011年3月11日、東日本大震災が発生。続いて起こった福島原発事故を受けて、東海第二発電所を含む国内すべての原子力発電所が稼働を停止。現在の東海第二発電所は、福島原発事故ののちに定められた厳しい安全基準を満たすための安全性対策工事の真っ最中である。東海第二発電所の工事は2024年9月に完了予定だ。

会員B:東海発電所の特徴と、東海第二発電所を中心とした東海村の大規模発電、東海村に発電所を建設する地理的なメリットについて

―東海発電所はどのような点が特徴的であったのか?

東海発電所は日本で最初の商用原子炉であり、核分裂生成熱を取り出す過程で炭酸ガスを用いた日本で唯一の原子炉である。一般的な原子炉(沸騰水型)では、核分裂により生じる熱で水を沸騰させて蒸気を作り、その蒸気の力でタービンを回転させ発電するという仕組みである。しかし、東海発電所では核分裂生成熱を炭酸ガスに吸収させ、その炭酸ガスで水を沸騰させることでタービン回転のための蒸気を生成していた。しかし、この方式では蒸気生成時に熱交換器を用いる必要があり、直接蒸気を生成する場合に比べて熱効率が下がるので出力もあまり大きくなかった。そのため日本では炭酸ガス型冷却炉は普及せず、沸騰水型や加圧水型が普及した。

―関東の電力需要を支える東海村

また、地盤がしっかりしている東海村の利点を生かして、東海第二発電所の近くにはLNG(液化天然ガス)を燃料にした火力発電所も建設されていて、東海第二発電所と火力発電所からは日本で2番目に高圧である275000Vの送電線が首都圏中心部へ延びる基幹送電線へと伸びていて、日々大電力を首都圏に送っている。そして東海第二発電所と火力発電所の発電量の合計は約360万kWと、東京電力管内の最大電力需要(約5600万kW)の約5.5%を東海村で賄うことが出来ている。

―東海村にはなぜこれほど発電所が集まっているのか??

前述の地盤の安定性のほかにも東海村に発電所を作る地理的メリットは多数存在する。まず海が近いため原子炉の中で用いる冷却材として海水を調達しやすく原子力発電所建設に向いている点が挙げられる。また東海村は港に近いため、船舶輸送が主であるLNGの輸送にも適していてLNG火力発電所を運営しやすいという利点もある。さらに、東海村は関東平野の外れに位置していて、栃木を通る基幹送電系統まで山を越えることなく送電線を伸ばすことができるので送電コストがそこまでかからない点も理由として考えられる。

会員C:「原発のあるまち」東海村ならではの風景や特徴について

東海村は、全国のすべての村のうち2番目に人口が多い。原子力発電所・日立の事業所の効果で人口が今も増え続けており、現在の人口は約3.8万人ほど。

 茨城県は、県の南部に人口が集まり北部からは流出することで人口の南北格差が拡大する「南北問題」が深刻化しているが、ここ東海村ではそうした傾向とは関係なく人口増加が続いている。迷惑施設と思われがちな原子力発電所ではあるが、原発が立地していることにより、村の経済は恩恵を受けている側面もあるのだ。

マンションが立ち並ぶ東海駅前(会員撮影)

 東海村のメインストリートは原子力科学研究所の入口から真っ直ぐに伸びる「原研通り」で、昔ながらの商店が並ぶものの、全国チェーンのお店は少ない。一方で駅の近くは区画整理が行われて新しい住宅地の開発が進み、多数のマンションやイオン東海店など、「村」とはまるで思えない景観が広がっている。

・付近のおすすめスポット

-セイコーマート

北海道のローカルコンビニチェーンであるセイコーマートは、実は茨城県を中心に関東の一部にも出店している。

(昨年当会員が作成した、セイコーマートの分布を表す地図)

東海村の近くでは、東海駅から日立・いわき方面へ一駅の大甕駅前にセコマがある。もちろんセコマ名物のホットシェフやガラナ、ご当地カップ麺などなど、茨城県にいながらプチ北海道旅行気分を味わうことが可能!東海第二発電所をご見学の際はぜひ立ち寄ってみてはいかがだろうか。

会員D: 地域の夢からNIMBYへ

 歓迎されて作られた東海発電所。村の入口の看板や高速道路のカントリーサイン、通りの名前に至るまで東海発電所の名前やモチーフが使われた。施設は地域の人を受け入れるために開かれた作りをしていて、科学館や休憩用のテラスがつくられ、まるで小さな公園のような役割を果たしていた。9.11の前までは、原子炉建屋の内部を見学することのできるツアーまで開催されていたという。

 しかし、1999年のJCO臨界事故や9.11、3.11の影響で次第に原発への風当たり・安全意識が高まると、こうした状況は一変。今や入構するだけでも複雑な手続きが必要になった。安全対策工事の影響で現在建設工事が進んでいる防潮堤は、施設外から見えなくなるよう、景観に配慮して広い保安林による目隠しがされている。原発から離れたところでも、駅前のイオンのすぐ横には原発反対の立て看板も。

 東海発電所は「明るい未来のエネルギー」の象徴として作られ、日本の高度経済成長を支えてきた。しかし、1999年以来度重なる事故により、地域住民はそうした夢から覚め、徐々に原発の抱える「現実」と向き合わざるをえなくなってきた。

会員E: "3.11"後の再稼働に向けた取り組み

 3.11のあと、国内にある原子力発電所が一斉に稼働を停止したことは記憶に新しい。この後、原子力発電所に関して「新たな安全基準を満たさない限り再稼働してはいけない」という新たなルールが設けられることになった。

 安全基準の設定に当たっては、原子力規制委員会が具体的な取り組みを指示するといった形ではなく、規制委員会が考えている機能を満たすように、各原発の事業者が規制委員会とのやり取りを踏まえて取り組みを立案している。その際、各事業者が機能を満たすよう慎重に考え色々な取り組みを規制委員会に対して提示している為、審査さらには再稼働が遅れていると職員の方が仰っていた。また、事故の反省を踏まえて事故時に迅速な対応が取れるよう、事故発生時の最高権限が政府から各事業者へと移された。

 安全性向上対策の三本の柱は、①電源確保②注水③徐熱である。また、原発事故時には水が非常に重要な役割を果たす。次に、東海第二発電所の具体的な取り組みについて述べる。津波の試算に対しては、四つの保守的な試算を追加し、標高17.1mの津波が来ても耐えられる標高20mの防潮堤が建設中である。さらに、万が一防潮堤を超えた24mの津波(年超過確率で約370万年に1回といった試算)が襲ってきたことを想定し、地下や高台を利用した取り組みがなされている。

会員F: 発電所のセキュリティ

 今回の見学で印象に残ったのは、発電所内の雰囲気である。原子力館は発電所にほど近く、発電所の敷地のすぐ近くには幹線道路もコンビニも民家も多いが敷地内に一歩入るには厳密な手続きを必要とする。このセキュリティがどのような経緯で整備され、世界的にどのレベルの厳しさのものなのかを述べる。

 東海発電所を始めとするインフラ施設には、万全なセキュリティと外部に開かれた発電所の実現を両立させているという特徴がある。このバランスの考え方の転換点となったのは、アメリカで2001年9月11日に起こった同時多発テロだといえる。9.11まではどんな想定があったかは、日本原子力学会誌が解説している。「米国原子力規制委員会(NRC)では,2001.9.11の同時多発テロ以前は,原子炉施設に対する設計基礎脅威 (Design Basis Threat : DBT)として,自動小銃を携行したテロリスト,施設内部や警備装置等の情報を漏らす内部脅威者の存在を想定していた。」2001年同時多発テロを契機に、航空機テロの可能性が示唆された。(JAEAが運営する原子力百科事典ATOMICAの原子力セキュリティに関する項目による)特に原子力施設が空から攻撃を受けた場合、「多量の放射性物質を環境に拡散させて重大事故に繋がる可能性」があるとされた。9.11を機に、原子力発電所が内部からの脅威を中心に対策していたものが、外部からの脅威にも対策しなければならなくなったといえる。

 原子力館の方に伺ったお話によると、9.11前には近隣の住民の方を発電所の敷地内に招き、原子炉の近くなどをレクリエーションの会場とするイベントがあったというが、9.11をきっかけに発電所の事前に許されたエリア以外には職員以外が立ち入ることは出来なくなったという。

 さらに、発電所に現在設置されているセキュリティは、非常に厳格である。これは、法律上「銃器を保持できない警備の下に対策を講じる」(日本原子力学会誌)しかない日本の法律にも対応したものであると考えられる。例えば東海発電所では、敷地内に入場する車両、個人は事前の登録が必要で、さらに建物内に入るには空港のような入域時の金属探知機による検査などが必要となっている。また、内閣の資料の説明によると、警備員の配置や構内に入れる人員の厳密な管理に加え、防御壁の配置など物理的な設備によるセキュリティにも力が入れられている。

 日本原子力学会誌によると、日本の核セキュリティの将来への展望として、世界中で見ても特徴的であるセキュリティそのものに関する考え方を世界に発信していくことができるという。ここで述べた性善説的な考え方とは、「ルールだけ守っていれば間違いはなく,裏切る者は卑怯者として 社会から抹殺されるという気高い社会風土(環境)」の中で、核燃料物質の防護に特に注意を払うことであるとする。一方世界では、『「汚い爆弾」(盗まれた放射性物質を発散させる装置)による社会に対する放射能汚染の脅威という観点から,国際的には(核燃料物質だけでなく、研究所で扱われる放射性物質など)他の放射性物質全てを含んだ「核セキュリティ」という視点に立った幅広いセキュリティ問題』が議論されている。日本のように仲間内の人間関係を信頼することで、研究所などにおけるインサイダー(=内部脅威者)の危険を解決する考え方が長期的には世界に浸透していくべきだという。この考え方は自分にとって驚きであった。インサイダーにより放射性物質が持ち出されるというリスクへの考え方も国によって違うことから、日本がアジア諸国に発電所等の設備を輸出するときや、海外に視察に行くときにそれを認識することが重要であると考えた。日本の考え方が楽観的だとしても、そのような考え方があると世界に知らしめることには価値があると考える。

東海発電所から離れた場所にある原子力館別館(会員撮影)

参考文献:

原子力百科事典ATOMICA. (2009). 原子力施設の航空機攻撃に対する米国の対応(2001年9月11日以降). JAEA

宮本直樹, 草間経二, and 飯田透. "最近の核セキュリティの国際動向と日本の基本姿勢 1. IAEA 核セキュリティ勧告文書の解説." 日本原子力学会誌 ATOMOΣ 54.2 (2012): 123-127.

内閣官房副長官補室.(2012).原子力発電所等に対するテロの未然防止対策の強化について」の実施状況等

会員G:茨城県に集積する原子力産業の協力レジーム-東海NOAH協定の概要と活動-

東海NOAH協定加盟事業者と東海第二発電所の立地

(図中の円のうち、破線は東海第二発電所から約5km、点線は同約30kmを示す)

「原子力事業所安全協力協定(東海NOAH協定)」は1999年に発生したJOC臨界事故を契機として2000年1月に締結されたものである。現在は東海村、那珂市、大洗町、鉾田市に所在する17事業所が加盟しており、平時には安全協力協定に基づく相互点検や研修会の開催、トラブルなどに関する情報共有などを行っている。愛称の東海NOAH協定は発足時の加盟21事業所が立地した東海村、大洗町、旭町(現鉾田市)、那珂町(現那珂市)、ひたちなか市の頭文字に由来する。なお現在はひたちなか市には原子力事業所は立地していない。同地域では東海NOAH協定だけでなく、過去の原子力事故やトラブル対応の反省から近隣自治体と原子力事業所間の安全協力協定、通報連絡協定などが多重に整備されており、原子力に関する研究開発施設や燃料棒の製造をはじめとした産業が近接地域に集積する茨城県ならではの事例であると言える。

参考文献

原子力事業所安全協力協定「令和4年度上期活動状況報告」(URL:https://tnoah.jaea.go.jp/3.katudou/r4/2022kamiki_katudoujyoukyouhoukoku.pdf 、最終閲覧日:2022/11/21)

会員H:理系が考える原子力発電所の目指すべきところ〜墜落事故後も他機の飛行を止めない航空会社との違いはどこか?〜

 原子力発電の仕組みを理解するためにわかっておくべきことは2つで、1つ目はエネルギー保存則だ。この世の中にあるエネルギーの総和は一定である。2つ目はイヤな形を保つのにもエネルギーが必要だということだ。

 さて端的に言えば、原子力発電は、イヤなかたちをしている高エネルギーの状態から、安心する形へと解放させてあげる途中に放出されるその分のエネルギーで発電している。この時の放出された熱エネルギーが水を温め蒸気を発生させる。この蒸気は風車(かざぐるま)のようにタービンを回す。この運動エネルギーが電気エネルギーになる。ちなみに、この過程で発生した熱エネルギーは一定にキープする必要があるが、そのときに膨大な量の水を使う。故に原発は海沿いの立地が必須となる。

 原発を怖いと恐れるときに頭に浮かぶ言葉は「放射線」だろう。これは、低エネルギーへと解放するときにエネルギーと同時に放射線を発してしまう物質を使っているために懸念される点である。放射性のない物質を使えばいいのではないか?と考えるかもしれないが、使われている「ウラン」は解放されるエネルギーが膨大であり、更に、反応に必要になる「中性子」を反応中に生むため大変効率が良いのだ。

 そして3.11以降、今回見学した東海発電所は今まで以上に安全安心の電力を供給できるように改良工事を進めてきている。福島第一原発事故で放射性物質が広がった原因は、津波により冷却装置を失ったことにある。下がることのなくなった熱が、反応を起こす場所「炉心」を溶かしたうえに、高温の金属と水蒸気が反応して水素を発生させ、水素が酸素と反応して水素爆発が起こったことで施設が壊され放射性物質が広く拡散したというわけだ。そこで東海第二発電所では①未曾有の災害に備えて設備を補強する②津波から守るために防潮堤を設置する③冷却用電源が失われないように電源を多重化する④冷却を絶やさないために水源やポンプを多重化する⑤放射性物質を拡散させない目的で「フィルターベント」という、緊急時に蒸気だけを大気中に放出するものを設置する などの対策をとっている。他にも火災や被水、竜巻やテロにも対策を施している。

 これらを学んで、私は航空会社との類似性を見出し、以下の表にまとめた。

どちらも生活に必要且つ代替は可能でありながらも効率が高いために重要だ。しかし、頻度は非常に少ないが命に及ぶような危険性を伴うために万全な対策がとられている。

 原発と航空会社はこのような共通項を持ちながらも大きな相違点がある。それは信頼だ。政治的な発言をするつもりはないが、「原発廃止」をマニフェストとして掲げる政党がある程には是非が別れる議題となる。実際、墜落事故が起きても他機を全て止めるなど聞いたことがないが、原発では事故後全ての原発の稼働が停止された。

 私が考える原子力発電所と航空会社との違いは、単価と認知度だ。空路を使うときは飛行機に乗ることそのものが需要になる場合も多く、価格が高い乗り物である。対して電気はインフラであり、消費者としては安ければ安いほど良い。また、空港や飛行機は身近で比較的アクセスしやすいのに対して、原発は今回私たちがしたように余程の目的を持たないとアクセスしにくい。内容も難解で親近感からは程遠く、小さい子供が飛行機にそうするように、惹かれるような要素はおよそ見つけづらい。

 そこで、原発が信頼を取り戻すために目指すべき姿は「“技術的な”安全安心を極めること」ではなく、「“精神的な”安全安心を提供すること」だろうと考える。空港は白を基調としたクリーンな施設で、携わる方々が皆笑顔で優しく、かっこよく英語を使いながら真剣にお仕事をなさっている。単価が違う、空の旅は高級なサービス業だからと言われてしまえばそれまでだが、親しみを持ってもらおうとする姿勢が今最も大切なのではないかと考える。

 東海第二発電所では、以前は併設しているテラスで、コロナ禍の現在は別館にてクイズやVRツアーを行うことで地域住民との距離を縮めてきた。今後は遠方からのお客様も獲得することを視野に入れてもいいのではないだろうか。

[参考文献]

数研出版『改訂版フォトサイエンス物理図録』

以上お読みいただきありがとうございました。会員それぞれが独自の視点で学びを深められる見学になりました。読者のみなさんも東海発電所に興味があれば見学に訪れてみてください。

早稲田大学地理学研究会

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